優秀なトップほど落ちる沼


相手の本質-本性-インティグリティ


知っている人も多い、三国志「項羽と劉邦」



項羽は、将軍の名家に生まれ、幼少から兵学を学び、体格に恵まれ、部下に慈悲深く、愛した女性に一途で、優れた文武両道の持ち主でした。



かたや、劉邦は、農家に生まれ、武術にも政略にも政治にもうとく、勇気もないため、いつも強い者にへりくだり、弱い者に傲慢で、女にもだらしない性格でした。



でも、天下を取ったのは、劉邦でした。



項羽は、ついてきてくれる人がいなくなったことが、1番の敗因でした。



慈悲深い彼から、どうしてみんな去っていったのか?



戦いに勝って手にした領土を独り占めしたのは、優秀な自分のおかげだとうぬぼれていたからです。




つまり、


その人の本質が知りたいなら、その人に小さな権力を与えて酒を飲ませたら一発でわかる。


ということですね。




その「うぬぼれ」よりも致命的な「人が自分から去っていく理由」が、女々しさだと、三国志には書かれています。



親切にしてもらい、優しい言葉をかけられ、慈悲深く接してもらっても、出し渋る経営者についていきたいとは思わないのです。



労働する経営者は無能だと言われるように、経営者の仕事は、経営をすることなのです。


 

経営の3要素



  1. ビジョンや夢を語るのが得意な「アート型」

  2. 戦略や分析が得意な「サイエンス型」

  3. 経験に裏打ちされた専門性の高い「クラフト型」



トップは、どれかが欠けているか、極端な話、全部なくてもいいのです。


その代わり、絶対になくてはならないのが「インティグリティ」です。


No.2らは、トップの不得意をすべてやらなければなりません。




よりインティグリティであったのが、劉邦のほうでした。



彼はできるだけ戦いを避け、戦わざるを得なくなったときも、可能な限り降伏を促し、降伏した者からは領土を没収しない約束を交わし、領土拡大に貢献してくれた者には、得た領地を惜しみなく与え続けました。



そのため、全国から優れた人材が集まり、彼らは劉邦に忠誠を誓うようになり、与えた財が何十倍にもなって劉邦の下に還ってきたのです。



ですが、そんな劉邦にも致命的な欠点がありました。



それが


「劣等感」です。


彼の右腕として活躍した韓信が自分より優れていることに嫉妬し、裏切られる恐怖から韓信を処刑しています。



劣等感は猜疑心を強めていくので、自らを被害者に、相手を加害者にして信頼関係を崩壊させていきます。



劣等感を根源にもつ猜疑心は、さらに新しい加害者を求めていきます。



自分が被害者でなければ、自分のせいにされた過去の古傷が癒えないからです。



「項羽と劉邦」の話から私たちが学ぶことは、2つあります。



  1. トップに立つ者は、特別な才はなくてもいいが、部下を信頼して使うインテグリティ(高潔さ・真摯さ・誠実さ)が必要

  2. 他人の利益(利他)のために尽くすこと



この2つが、結局トップの利益(自利)になるのです。



インテグリティとは、ドラッガーが提唱したトップのあるべき姿のことです。



高潔さ、真摯さ、誠実さは見えないので、ドラッガーは「インティグリティが欠如している人」を示すことで、インティグリティとは何たるかを提示しています。


​強みよりも弱みに目を向ける者 何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ者 真摯さよりも、頭のよさを重視する者 部下に脅威を感じる者 自らの仕事に高い基準を設定しない者



つまり、これらの逆は、


裏表のない一貫した信念がある人のことです。


劉邦は、部下に脅威をもってしまったがゆえに、優秀なNo.2を処刑してしまったわけです。



 

優秀なある2人に差がついた「真摯さ」




ある2人は、どちらも社内での貢献度が高かったので、会社から同じくらい評価されていました。



人間関係も問題なく、周囲からも信頼されていた2人ですが、慕われていたのは「真摯さ」のある人でした。



ある日、慕われている人は、自分の失敗を見つけてくれた後輩に「教えてくれてありがとう、助かったよ」と言いました。



別のある日、もう1人の優秀な人は、部下が彼のミスを発見し報告したとき、「気がついた人が間違いを訂正して提出してくれればいい」と言ったのです。



物事がうまく行ってるときには見えなくて、困ったときにその人の本質が見えるので、徐々に仕事や人が離れていくのです。


こうして、真摯(ひたむき)であるかどうかは、ネガティブな出来事で見ることができます。



インティグリティが「裏表のない一貫した信念」であるならば、それを言語化したものが、理念やビジョン、行動指針です。



事実として、トップにビジョンがない組織ほど、インティグリティが欠如した人が多い特徴があります。



中小企業に務める会社員1000人を対象とした「会社の理念を知っていますか?」というアンケートで、「知らない」「知ることに意味がない」と答えた人たちのほうが、「知っている」「共感できる」と答えた人より、会社が楽しくないと答えています。



会社そのものにも興味がなく、不満を抱いている人が多かったのが特徴的で、これは採用側が「この人でもいい」という打算で採用している可能性もあります。



中小企業で理念やビジョンが社員に浸透していない、作っていない会社ほど、No.2とトップはうまくいっていないのです。



結局、インナーブランディングができていないのです。



そのせいでNo.2不在のトップも多いのです。



No.2が不在だから、1人で考え、1人で決断しなければならない、だからうまくいかないのです。



この状態は、トップが、越えてはいけない一線を越えていると言わざるを得ません。



現場が主体的に動こうと思えるのは、No.2の言葉だということを見逃しているのです。



あくまでも現場にとってリーダーは、No.2でありトップではないのです。



劉邦は、No.2の韓信を処刑する前、こんなやりとりがありました。